学んで、触れ合い、そして打つ!食文化体験型の宿泊施設『UDON HOUSE』
名所を訪ねて、記念撮影して、また次の名所へ。
帰ってきて残るのは、写真と自分や旅をした仲間との思い出。
これまでの旅は、もしかすると消費ばかりだったのかもしれません。
今、人々が遠い地へと旅する目的が、変わりつつあります。
ガイド通りに回る「観光」から、自分らしくその地域と触れ合う「体験」へ。
香川県の三豊市にできた『UDON HOUSE』は、讃岐うどんという食文化をまるごと体験しながら、地域を楽しむことのできる宿泊施設。
東京都からの移住者である原田佳南子さんが代表をつとめる、国内外から注目されているまったく新しい宿なんです。
宿泊の場合はうどん打ち体験が必ずセットで29,800円〜(税別)。
1日目は農園ツアー、2日目の朝は人気のうどん屋をめぐる「うどんホッピング」も組み込まれ、讃岐うどんを学び、讃岐うどんを通じて地域の営みを深く知れる内容となっています。
今回は日帰りの「1 DAY うどんクラス&農園ツアー(15,000円〜(税別))」を体験してきました。
地域の方々が教えてくれる、うどんクラス開始
自己紹介と互いの呼び名を決めたのち、うどん体験の最初のカリキュラムは座学。
讃岐うどんの基本から、日本の麺文化やうどんの製法について等、なんとなく知っているようで知らない讃岐うどんにまつわる概要を学びます。
特に驚いたのは、香川県民のうどんを食べる量。
全国平均が年間26玉(月に2玉程度)に対して、香川では188玉(週3〜4玉)なんだそう!
もはやお米と同じくらい食べていそうです。
UDON HOUSEの魅力のひとつは、スタッフも地域の方が中心だということ。
この日、うどん体験のナビゲーターをしてくれたマスミさんは、生まれも育ちも香川という生粋のうどん民。原田さんがUDON HOUSEを立ち上げて間もなく、右も左もわからない時に手を貸してくれたそう。
座学のあとは手ごね、足踏みへ。
ここでもこの地域のスタッフであるエイコさんがみっちりと教えてくれました。
「練る作業は男の仕事、踏む作業は子どもと女の仕事だったのよ」
とエイコさん。
底抜けに明るく、こういう方に出会えると「地域を旅するっていうのはこういうことだよな」と思わずにんまりしてしまいます。
うどんのコシは、小麦粉のタンパク質と水が合わさると生まれるグルテンによるものだといいます。水が小麦粉の粒子に行き渡り浸透することを”水和”といいますが、足踏みは、その水和を促進させるために非常に重要な工程なのだそうです。
讃岐うどんを通じて、この地の理解を深める
踏んだ生地を寝かせている間に、再び座学。
今度はより讃岐うどんにフォーカスして学びを深めます。
ここでの講師は原田さん。
うどんブームは、大阪万博を第1次ブームからはじまり、有名チェーンが全国展開された第4次ブームまであるそうですが、「次の第5次ブームをUDON HOUSEが作る!」と原田さんが熱く語ってくれました。
「これまでのうどんは、”食べるうどん”。これからはUDON HOUSEが提案する”体験するうどん”で、日本のみならず世界から讃岐うどんが愛される”UDON”をつくっていきます。」
讃岐うどんの特徴といえば、コシのある麺だけではなく、うまみ溢れる出汁も外せません。
讃岐うどんの出汁には主にイリコが使われることが多いそうなのですが、実は香川県の最西端にある伊吹島はイリコ漁がとても盛んで、鮮度にこだわり、全国でも最高品質と評されています。
そのこだわりの出汁に加えるかえしには醤油が含まれますが、醤油も香川では小豆島が生産が盛んな地。濃口はつけ出汁に、薄口はかけ出汁に使われるんだそうです。
ここまでうどんの話をするとさすがにお腹が空いてくる、ということでうどん休憩。
このタイミングで食べるうどんは、前日に製麺機で作ったうどんだそうで、自分で打ったうどんとの違いを楽しんでもらうためにも用意されています。
うどんを食べてお腹が満たされた後は、うどんを寝かせるために形を整えます。足踏みで平べったくなった生地を「菊揉み」という手法で丸くしていきます。
日本の原風景広がる農園で、収穫体験
ここまできたら、生地をしばらく寝かせます。
そのあいだに、みんなで農園ツアーへ。
複数の農園とこの取り組みをされているそうですが、今回はアスパラガスやとうもろこしを作っている農園へ。ここで収穫した野菜を、このあと自分で打ったうどんに合わせる天ぷらにしてくれるという贅沢なツアーなんです。
アスパラの生態について詳しく教えてもらいながら収穫。野菜ってどんなふうに実っているかなんとなくイメージはつくのですが、アスパラは盲点というか、イメージつきますか?
実は、たけのこのように土から直接そのままの形で生えていて、それを収穫しているんだそうです。ちょっと意外でした。
うどんづくりは最終局面、延ばして、切る!
1時間ほどの農園ツアーを終えて戻ってきた頃には、寝かせていた生地がちょうどいい具合に。
ここから細い麺の形にすべく、生地を延ばしていきます。
丸くして寝かせいたものを最終的には四角い形に延ばすということで、これが初心者はなかなか苦戦するそう。一度に無理はせず、納得のいく薄さまでなんどもなんども延ばします。
延ばし終えたら、いよいよ麺づくり最後の工程。麺を好みの太さにカットしてきます。
麺切り台は包丁を上げた高さの分だけ太くなる仕組みだそうで、一定のリズムで切っていかないと太さがバラバラになってしまいます。
いよいよ実食!打ちたて&採れたての讃岐うどん
麺を茹でたり、天ぷらを揚げている間に、讃岐うどんの食べ方をレクチャーしてもらいます。
うどん屋に行くと当然のように書かれているメニューたち。どれが何を意味しているのかわからず、焦って注文して意図したものと違うものだったことがたまにあるのですが、このレクチャーでだいぶ頭のなかが整理されました。
食べ方の整理もできたところで麺も茹で上がり、自分たちで打った麺と収穫した野菜による天ぷらをいただきます!
まずは、「天ぷらぶっかけ」で。
手打ちらしいちょっとまばらな太さの麺が美味しい!コシもしっかりあって、想像以上にうまくいったように思います。これも親身に教えてくださったUDON HOUSEのスタッフの皆様のおかげ。
収穫したてのアスパラもご覧の通りまるっと揚がってます。噛んだ時のジュワッとしたジューシーさがこれがまたたまりません。
続いて、UDON HOUSEおすすめの「釜たま4段活用」をいただくことに。
4段活用とは、最初は一般的な釜たま、次にバターを追加、次にブラックペッパー、最後にトリュフオイルを加えるというもの。
2段目にはコクが増し、3段目にはカルボナーラのように、4段目は上品な味わいに変化していったように思います。1食でここまでバリエーションを楽しめるのは満足度高いですね!
打ったうどんは5〜6玉分あったので、残りは持ち帰ることに。
原田さんの想いと、地域の人々が生んだUDON HOUSE
宿泊しながら、うどん打ちの体験から地域の方々とも交流を持てるUDON HOUSE。
体験してみて改めて考えさせられたのは、本質的な豊かさ、贅沢とは何なのか、という問いでした。そして、日本人なのに日本のことで知らないことが多いな、ということも。旅をすることでこのような体験が各地でできるとしたなら、あちこちにふるさとが生まれ、いつでも帰る場所ができるように思います。
そもそも、なぜ原田さんはUDON HOUSEのような体験型宿泊施設をはじめたのでしょうか。最後にちょっとだけうかがってみました。
「わたしはもともと旅先に観光客として行くのが好きじゃなかったんです。だから観光客向けのお店やホテルには泊まらず、現地にいる友達の家とかにお邪魔してたんですが、必ずしも現地に知人がいるわけじゃないから、そういう地域にいきたい時はどうする?って考えたら、考え方に合った場所がなかったんです。」
それから、身寄りもないけどその地域のことや人と触れ合える場を作ろう!と考えた原田さん。前職の仕事のなかで縁あって三豊市を訪ね、この地の文化を知るのに欠かせないのが「うどん」だったといいます。
「だからUDON HOUSEでも、地域との触れ合いを大切にしています。うどんを打つのが上手になるように教えているわけではなく、この地域の文化を知ってほしくてやっているんです」
UDON HOUSEのうどん打ち体験も、38ヶ国から約4万人もの受講生のいる講座に原田さんの視点を加えて生まれた、独自のカリキュラム。
出身は北海道でも高校からは東京に出て地元や田舎という存在がなかったという原田さんが、東京にいながら地方の仕事をするのではなく、地方に入って仕事をしよう!と決めて単身三豊市に乗り込み、地域の様々な人の協力で今があるといいます。
うどんを学びながら、地域を楽しむ。
UDON HOUSEで過ごす時間は、うどんを通じて人と人のつながりを再確認し、暮らしにおける大切なことを自身に問い直す旅になるかもしれません。
<店名>
UDON HOUSE
<住所>
〒769-1507
香川県三豊市豊中町岡本1651-3
<電話番号>
0875-89-1362
<メールアドレス>
info@udonhouse.jp
<ウェブサイト>
https://udonhouse.jp/
- Writer
- 羽田裕明
- Photographer
- 羽田裕明
ソトレシピLOCAL GUIDE
-
株式会社MISO SOUP 代表取締役/瀬戸内うどんカンパニー株式会社代表取締役/合同会社三豊鶴 代表社員
北川 智博(TOMOHIRO KITAGAWA)
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