【前編】太宰治が生まれ育った青森県・金木。文豪も愛した「奥津軽の味」とは?
青森県五所川原市 POSTED on 2020.02.04
青森県五所川原市 POSTED on 2020.02.04
津軽平野に広がる豊かな田園と、その中をゆったり走り抜ける津軽鉄道。そう、ここは青森県北西部の「奥津軽」と呼ばれる地域。なかでも五所川原市の金木(かなぎ)は、『走れメロス』『人間失格』『斜陽』などで名高い文豪・太宰治が生まれ育った町として知られています。
新しいカルチャーは都心部から波紋状に広がっていく傾向にあるがゆえ、本州の北端に位置する金木には昔ながらの食文化が色濃く残っています。今回はそんな奥津軽の郷土料理にフォーカス。めずらしい料理の数々を目と舌で堪能してきました。
奥津軽の郷土料理をゆっくり味わうならここ!
まず訪れたのは、津軽鉄道線・金木駅からすぐの郷土小料理店『桐華(きりか)』。女将の木下きり子さんが笑顔で迎えてくれるアットホームなお店です。オープンから21年、地元の人びとや観光客に愛されてきました。
古くからの穀倉地帯である津軽地方では、米を使った料理が豊富。蒸したもち米と野菜を乳酸発酵させてつくる「すしこ」といったユニークな料理をはじめ、味噌や米麹も多く使われます。一方、やませ(オホーツク海からの冷たい北東風)が吹く南部地方や下北地方は稲作が難しく、同じ青森の中でも地域によって食文化がまったく異なることがわかります。
前菜は、青森の伝統食材・アブラツノザメの頭を煮て、肉や軟骨を酢味噌で和えた「すくめ」、にしんを米麹と塩で漬け込んだ寒い地方特有の発酵料理「切り込み」、そしておとなり秋田の名産を使った「いぶりがっことカマンベール」。
大きなホタテ貝を器がわりにしたこちらは、太宰治の小説『津軽』にも登場する「貝焼き味噌」。焼き干しでとった出汁と味噌を卵でとじた、優しい味わいの一品。風邪を引いたときの定番メニューでもあるそうです。この貝殻は各家庭にあり、嫁入り道具として持たせるのが習慣だとか。
体の芯から温まる「タラのじゃっぱ汁」。「じゃっぱ」とは「雑把」を意味する津軽弁で、魚をおろした際に出るアラのこと。内臓まで丸ごと煮込むので、タラの旨みがしっかり出ていてとてもおいしい! 津軽地方では味噌ベースですが、下北地方では塩味が主流だそう。
実は馬産地でもある青森。金木でよく食べられている「馬肉の煮物(馬肉鍋)」は、高菜、ゴボウ、豆腐などと一緒に味噌仕立てで煮込みます。噛むほどに旨みが広がる馬肉は、意外とクセが少なく何杯でもペロッといけてしまいそう。夏は山菜のミズを入れることも。
陸奥湾でしかとれないツブ貝(モスソ貝)を使った「ツブ味噌」。一般的に知られるツブ貝とは違い、丸い貝殻ともちもちした肝が特徴です。青森ではおでんの具の定番で、お正月には水ものや煮しめにして食べるそう。
おつまみに出していただいたのは「身欠きニシン」。ニシンの干物である身欠きニシンに生味噌をつけて食べる(もしくは醤油に漬ける)簡単なおかずです。
そして最後は、生卵を溶いて醤油を垂らし、干鱈(ひだら/干したタラ)につけていただく「タラたま」。干鱈は小説『津軽』にも出てきます。タラの旨みが凝縮された味わいはお酒にぴったり。カチカチに固まった干鱈の身は金づちで叩いてほぐすのですが、昔はそれが子どもたちの仕事だったそうです。
独特の食材や調理方法を用いた郷土料理の数々。そこからは、この地域ならではの人びとの暮らしが垣間見えました。ぜひ女将の説明を聞きながら、一皿一皿をじっくりと味わってみてください。
店名:郷土小料理 桐華
住所:〒037-0202 青森県五所川原市金木町朝日山358-2
TEL:0173-53-3100
営業時間:18:00~23:00(L.O.22:30)
定休日:月曜
奥津軽観光の拠点、かなぎ元気村『かだるべぇ』
金木には、太宰治の生家・津島家とゆかりのある傍島(そばじま)家が住んでいた築140年の古民家をリフォームした、かなぎ元気村『かだるべぇ』という施設があります。「かだるべぇ」とは津軽弁で「一緒に語りましょう」という意味。
現在は、郷土料理を楽しめるカフェ『茶房 鄙家(ひなや)』と、併設されたテントサイトでのグランピングの利用がメインですが、2020年春からは宿泊施設として再オープンする予定。ぜひ奥津軽観光の拠点にしてみてはいかがでしょうか。
施設名:かなぎ元気村 かだるべぇ
住所:〒037-0207青森県五所川原市金木町蒔田桑元39-2
TEL:0173-52-2882
営業時間:10:00~16:00
定休日:月曜・火曜・水曜、12〜3月
Webサイト:http://www.kanagi-gc.net/village/
※2020年春より施設内での宿泊が可能になります。詳細はHPに掲載予定。
- Writer
- 三橋温子
- Photographer
- 飯坂大
ソトレシピLOCAL GUIDE
-
ソトレシピ編集部(SOTO RECIPE Editorial department)
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